「噛む」理由とプロセス

愛犬の困った行動の中でも特に深刻なのは「噛み」ですよね。「治したほうがいい」ではなく「治すべきこと」なので、今回はなぜ噛むのか?噛むまでのプロセスなどをお伝えします。

目次

ワンちゃんが噛む理由

ワンちゃんは人間と共に生きることを選んで、とても長い年月を一緒に過ごし進化してきました。当然飼い主さんがいないと生きるのが困難なこともわかっているはず。そんなワンちゃんにとって飼い主さんを、人を「噛む」というのは最終手段。そこまで追い詰められて仕方なく噛むんだという事情を理解してあげてほしいです。

吠えやその他困った行動もそうですが、ワンちゃんのすることには必ず理由があります。その中でも噛みは他とは違い直接的な攻撃でとても危険なことです。ワンちゃんによる咬傷事故などもありすぐにでも対応して改善しなくてはいけませんが、その前に噛む理由を理解しましょう。

甘噛み・遊び(のつもり)

遊びとして噛むというのはごく自然な行動です。通常は親や他の子と遊びながら加減を覚えていくのですが、あまり他犬と接触しない環境で育った子は加減がわからず強く噛んでしまうこともあります。

甘噛みも遊びの一種と言えますが、子犬の場合は歯の生え変わりで痒いとかムズムズするから噛むということも考えられます。

危機回避

ワンちゃんの3つの本能で解説した危機回避本能が働いて噛む可能性があります。ビビリな子に多いですが逃げられない状況で、恐怖心や不安の限界に達っすると「攻撃するしかない」とスイッチが入り正当防衛的な攻撃を選択します。

怒り

シンプルに怒って噛みつくこともあります。怒る原因は挙げればキリがありませんが、要するにワンちゃんの気持ちをわかってあげられずに間違った対応をしたことが原因の場合が多いので、コミュニケーションが取れて適した対応ができれば怒って噛まれることはないでしょう。

しかし私の経験上「怒らせて噛まれる」ことが一番多いと思っています。悲しいかなまだ「主従・服従」でしつけをしたり、誤った叱り方でワンちゃんの怒りが爆発して噛みに発展することが多いんです。

叱ったり主従・服従でしつけをする場合「人が主が当たり前」と考えていませんか?
大人しく言うことを聞いてくれればそうなりますが、うまくいかずに反抗されたらどうなるでしょうか。

はっきり言って本気を出せば運動能力も攻撃力もワンちゃんのほうが上です。主従関係を築こうとしたなら、噛みつかれて引いた場合はワンちゃんが主人になり負けた飼い主さんが従うのは当然のことです。思惑と違えどちゃんと主従関係は築けています。だからワンちゃんは自分の主張をして、飼い主さんが従わなかった時には噛むようになるんです。

言うこと聞かないときにリードを強く引っ張ったり強く叱って教えようとしていませんでしたか?ワンちゃんは同じように主従で飼い主さんをしつけようとしているだけです。

そういう関係を築こうとしておいて従うのはイヤ、噛まれるのもイヤだなんておかしな話しなので、それなら最初から主従や服従でしつけなければいいと思います。だって主従じゃなくても良好な関係が築けてワンちゃんは良い子になるんですから。

ポイント

✅ 噛みはワンちゃんにとって最終手段で、そこまで追い詰められていたと理解してほしい
✅ 叱って教えていたなら、ワンちゃんも同じように叱って(噛んで)教えるようになるのは普通

『噛み』の7段階のプロセス

噛みに至るまでと噛みの強度には何段階かありますが今回は7段階に分けて説明しましょう。

1️⃣ 嫌ですアピール
『愛犬の気持ちを知る ~カーミングシグナルの読み取り方~』で解説しましたが、ワンちゃんはボディーランゲージで「警戒」「イヤ」「近づかないで」など伝えようとしています。それを読み取れずに嫌がることをし続けると次の段階に進んでしまいます。

2️⃣ 唸る・吠える
ウゥゥ~と唸ったり吠えて「それ以上するな」と警告するようになります。さらに歯を見せていたら要注意で、次の段階に進むのは時間の問題です。ここまでくるとだいたいの人は気づけるでしょう。でもお風呂やブラッシング、歯磨きなどどうしてもやらないといけないことだと仕方なく続けてしまいがち。

でも仕方ないことではありません。しっかりと社会化すればいいだけなので、嫌がることはちゃんと社会化してあげましょう。怖がりな子が危機回避で噛むことも多いので、その場合も社会化はとても有効です。
※社会化に関する記事をご覧ください


3️⃣ スナップ(空噛み)
噛むマネをして威嚇するようになるとかなり危険で、いつ噛むようになってもおかしくありません。早急に対策が必要なので専門家に相談することをおすすめします。

ここまでされて嫌がることを続けることは普通ないのですが、ワンちゃんの噛みを甘く見ていたり面白がって繰り返す人もいるので絶対にやめてください。けっこう知らない人が多いんですが、小型犬でも本気で噛めば骨を砕くくらいの力はあります

4️⃣ 軽く噛む
歯を当てる、血が出ない程度に軽く噛む。この段階からは実際に噛んでいるので確実に専門家へ相談案件です。

痛みはあると思うのでほとんどの方は嫌がっていることをやめます。そうするとワンちゃんは「噛む=嫌なことをやめてくれる」と学習するので、今後 1️⃣~3️⃣ を飛ばしていきなり噛むことを選択するようになっていきます。一番効果的な手段を選ぶのは普通のことですよね。そうやって知らず知らずのうちに飼い主さんが愛犬に「噛むと解決できる」と教えているんです。

噛みで解決することを経験すればするほど加速していくので 、1️⃣~3️⃣ の段階で改善に取り組んだほうが時間も被害も少なくてすみます。

5️⃣ 強く噛む
血が出るほど、組織を持っていくほど噛むようになっている場合は日常生活にも支障をきたすはずです。この段階までくると口輪や隔離などの物理的対策は必須になってきます。

気に入らないことがあれば噛めばいいと学習しているはずなので、飼い主さんは気を使って生活しないといけないし他犬や人に危害を加えたらとんでもないことになります。

6️⃣ 追いかけて噛む、後ろから噛む
5️⃣ までは危機回避による攻撃と考えることができますが、追いかけてまで噛むとなると正当防衛ではなく単純に攻撃と考えられます。防衛のためなら逃げたり、背中を向けている相手を追ってまで噛む必要はないからです。

7️⃣ 殺す
殺すまでは。。。と思うかもしれませんが、実際にワンちゃんによる咬傷事故というのは起こっているんです。そうならないためにも早い段階で改善に取り組むべきだと理解してください。

噛みの防止・アドバイス

それでは噛みの防止方法やアドバイスをしていきます。改善方法はカウンセリングしないと具体的なアドバイスはできないし、間違った解釈・方法で対応すると悪化する可能性が高いのとケガのリスクまであるのでここではしません。

噛みのどの段階でも一番に考えるべきことは「噛ませないこと」です。噛んだ経験がなければどんな状況でも噛むという選択肢を選ぶ可能性はほとんどないし、思いもしないはずなので1度も噛む経験をさせないことは大事ですし、噛んだことがあってもそれ以上経験させないことが最優先です。

そのために 1️⃣ の段階で気づけるようにコミュニケーション術と対応方法を学んでおくことはとても大事なことになります。さらに『社会化』もしていれば噛みだけでなく、多くの困った行動は事前に防げると言ってもいいくらいです。

攻撃性のない甘噛みや遊びの噛みに関してはちゃんと対応すれば「噛みの許容範囲(強度)」を教えることができます。飼い主さんがしっかりと基準を持って、それを超えた場合に「イタイ」「ダメ」など合図を言って遊びをやめることを続ければワンちゃんは「このくらいまではOKなのね」と学習してくれます。

私は「ダメ」という合図を使っていましたがけっこう万能で、ダメと言われると遊びをやめてしまうなど「良いことは絶対起こらない、良いことがなくなる」と教えれば「ダメ」が罰の合図になります。そうなると飼い主さんが望まない行動をした時「ダメ」と言えばワンちゃんは今やっていることをやめてくれるようになるんです。

コツというか生徒さんに教える時は「ダメという時に叱り口調にしない」と伝えています。どうしても望まないことに対して怒っているんだと感情を乗せて伝えたがりますがそんな必要はありません。ダメが罰の合図とちゃんと教えられれば優しく言ってもやめてくれます。

少しでも叱るという気持ちが入ってしまうとワンちゃんにはそれが伝わるし、圧力になれば萎縮したりストレスになり、溜まり溜まって爆発して噛む原因にもなる。優しく言っても聞いてくれるんですから、叱り口調や怒りを伝えることはデメリットのほうが多いんです。

2️⃣ 3️⃣ になると黄色信号なので早急に原因を突き止めて社会化や改善をしていく必要があります。原因や方法等については過去記事をすべて読んでいただければと思います。何かしら心当たりや引っかかるところがあるはずです。ない場合は専門家への相談をおすすめします。

4️⃣ 5️⃣ は赤信号で専門家への相談は必須だと思ってください。噛みつくまで気づけなかったり改善できなかったということは自己解決は難しいと判断します。

さらに物理的対策も必要で、口輪をしたり完全隔離して接触しないようにすることも考えなければいけません。血が出るまで噛む場合は必須と言っていいでしょう。物理的対策をして噛めない状況を作り、それ以上経験させないようにしてから噛みの原因に対して改善策を考え対応していくことになります。

6️⃣ は別格で防衛よりも攻撃主体になっている可能性が高いのでとても危険です。それでもあきらめることなく専門家と治していってほしいです。たいていの場合は噛むようになった原因は人間側にあるのですから。

7️⃣ は。。。ここまでいくことはほとんどないと思いますが、あくまでもプロセスなのでストレスや怒りが爆発すれば噛んだ事のないワンちゃんでもいつ咬傷事故を起こしてもおかしくないということを覚えておいてください。

ポイント

✅ 早い段階で対応するほうが時間も被害も少ない
4️⃣ 以降は物理的対策と専門家への相談がないと改善が難しい場合が多い

噛みのプロセスとアドバイスについてお話しましたが、噛みはしつけを失敗した最終到達地点と私は考えています。愛犬を迎えたときにはすでに攻撃性が出ていたり噛むようになっていたということもあるかもしれませんが、治さないといけないことです。

噛みを治すことができればどんなことだって対応できるでしょう。しかし噛んで解決することの有用性や、それに快楽を覚えてしまったワンちゃんを自力で治すのは難しいことなので専門家へ相談することを強くおすすめします。

まとめ

しつけに関することを書かせていただきましたがポイントをまとめると

🔸 しつけ=コミュニケーション
🔸 困ったら治すではなく、困った行動にならないように対応・教えるのが「しつけ
🔸 「社会化」だけしておけば困ることはほとんどないというくらい社会化は大事
🔸 叱らなくてもしつけはできる!

しつけは困ってからやるものではなく、愛犬とのコミュニケーションで絆を深めてお互いを尊重し楽しく幸せに暮らすためのものだとわかっていただけたらうれしいです。

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