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「動物愛護」と「動物福祉」|愛犬を幸せにする知識を持とう

「あなたの愛犬は幸せですか?」と問えば、ほとんどの人が「はい」と答えるでしょう。では、「あなたの愛犬が幸せであることを証明する客観的事実を5つ答えてください。」と聞かれたら、答えられるでしょうか?

私たちが愛情をもって犬に接していることは、「イエイヌ」という一つの動物種にとっての幸福と必ずしもイコールではないかもしれません。

自信を持って愛犬が幸せであることを証明するには、愛情だけではなく、犬という動物に対する知識やリスペクトが必要です。

最期に「幸せだったね」と後悔なく愛犬を見送るためにも、犬の幸せを科学してみましょう。

日本は動物福祉後進国?

日本国内では、「日本は動物福祉後進国だ」という意見をよく耳にします。

動物愛護団体の努力もむなしく、未だにペットショップでの生体販売を禁止できず、殺処分も無くせない。ペットに人権(?)はなく、未だに法律上は人の所有物という扱いがなされます。

日本は欧米諸国に比べて恥じるべき動物福祉後進国なのでしょうか?

動物愛護と動物福祉の違い

日本で動物を保護する法律といえば「動物の愛護及び管理に関する法律」通称「動物愛護法」です。一方、欧米を中心にうたわれているのは、「動物福祉」。二つの言葉はとてもよく似ていますが、根本的な観念が異なります。

「動物愛護」の主体は人間です。「私が見てかわいそうだから助ける」という、「私」を主語とする「情」が根幹にあり、そこに学術的な知識やエビデンスは必ずしも必要ではありません。

そのため動物愛護法には「適正に」「みだりに」など、曖昧で主観的な言葉が並び、何をどうすれば罰せられるのかが不明瞭です。

対して欧米諸国でうたわれる「動物福祉」とは、主語が「動物」です。「動物が幸福を感じるか」を、各動物種ごとに生態、遺伝、行動や神経反応など、エビデンスのある事実から「動物の幸福」の基準が決められます。

数値化された基準を持つ法律は違反者を見つけることにも役立つ一方、これから動物管理業を開始しようとする者にとっても目安となります。

ただし、学問・知識に愛情は必ずしも必要ありません。

優劣のない2つの考え

動物愛護と動物福祉、どちらが正しいか、先進的かということはありません。主軸が違うだけで、どちらも大切な考え方です。

動物愛護と動物福祉の違いとして最もわかりやすい例をあげるとしたら、「安楽死」問題でしょう。

日本では、ペットの安楽死はあまり浸透していません。どちらかというと、どんなに治療費がかかっても1%の望みがあるならと治療継続を望む飼い主が多いのではないでしょうか。

自力で排泄ができなくなっても、立ち上がることも口から食べ物を摂ることができなくなっても、生きていてくれるだけでいい。そんな想いで愛犬を介護する日々。それは辛くとも貴重な時間です。

精一杯愛情を注ぎ、できることを全てしてあげたうえで、愛犬を見送ることができるでしょう。

動物福祉の考えでは反対に、末期治療は苦しみをただ引き延ばすだけだと考えます。予後の苦痛が明らかで、ペットのQOLに著しい悪影響がある場合は、積極的に安楽死を選択します。

愛するペットを死へ向かう苦痛から解放してあげること。自分の腕の中で、苦しむことなく逝かせてあげたいと願うことも、深い愛情の一つでしょう。

どちらが正しいかは、ペットとその家族にしか分かりません。どちらが先進的で、どちらが後進的ということもない。一つ言えることは、どちらを選択しても家族の死という悲しみは変わらないということです。

日本は動物に優しい国

日本人は元来動物に対して優しい国民性を持っていると言われます。

仏教による「輪廻転生」や「不殺生」の教えとアニミズム(自然崇拝)の背景を持つ日本では、古来より全ての動物に魂があると信じられてきました。自分も生まれ変わったらあの動物かもしれない、という信仰心が動物への慈愛に繋がったのでしょう。

闘犬や闘牛、サーカスといった熾烈な動物虐待の文化的背景を持つ欧米諸国に比べると、日本人は比較的動物に対する愛情が深い文化的背景を持つともいえます。

動物に対する愛情を文化的背景に持つ日本人。その国民性からか、「ペットは家族の一員」という考え方はすぐに浸透しました。

しかし、なぜか暴力的・高圧的なしつけ方法が未だに正しいとみなされることがあります。世界各国で否定され尽くしている支配性理論が、アップデートされないまま職人技のように受け継がれているのはとても残念なことです。

動物福祉はまず動物を知ることから

犬に対する研究は、日々進化しています。イエイヌは「偽の動物」として長く動物学者の間では意味のないものだと見向きもされませんでした。しかし、最近になって特に感情や認知の分野での研究が進んできています。

犬に対する情報をアップデートしよう

犬は、人間との交流を望み、飼い主とまるで母子のような愛着関係を結びます。また、飼い主に褒められると、犬の脳は人間と同じように報酬領域が活発化することから、ある程度人間の言葉の意味を理解する能力があることも分かってきました。

まるで人間の幼児と同じように、親との親密な関係を望み、褒められることに喜びを感じる彼らに、高圧的で暴力的なしつけ方法は必要ありません。

大きな音で驚かせたり、ケージ内に閉じ込めたり、ときには身体的な苦痛を与えたり。幼児教育では効果が完全に否定された虐待行為が、犬のしつけでは未だにテクニックとして紹介されることがあります。

犬を愛するには、まず犬という動物を知ることが大切ではないでしょうか。

犬を愛するために、犬を学ぶ

相手を幸せにするためには、相手のことを知らなければなりません。何をしたら喜ぶか、どんなものが好きなのか。恋人や家族に喜んでもらいたいと考えたとき、まずはその人の喜びそうなものを知ろうとするでしょう。

愛情を伝えるためには、相手のことをよく知ることが大切です。ましてや人間と犬という異種同士ならなおさらです。

もともと愛情深い日本人。これ以上愛情を深めるよりは、犬という動物に対する知識を深めることの方が大切です。

正常行動の発現ができる環境を整える

動物福祉の概念の一つに、「正常行動を発現する自由」があります。正常行動とは、その動物種の遺伝や習性による行動のことです。

犬の「正常行動」とは、毎日縄張りを探索し、群れの一員となって暮らすことです。

犬にとって留守番時間が長く、十分な散歩時間が確保されない環境に置かれることは、「正常行動を発現する自由」を制限されていることになります。

他にもマンションの壁が薄く、常に犬が他者の気配を感じる状況に置かれることは、群れを守って暮らす犬にとって大きなストレスとなるでしょう。

小さな物音でも吠え続ける、飼い主に向かってうなる、噛むなど犬の「問題行動」は、正常行動を制限され続けたことによる、ごく当たり前の反応なのかもしれません。

私たちが「問題行動」と認識している犬の行動の中には、「犬」という動物が暮らすのに相応しい環境を整えることで解決する問題もあります。この考え方は「環境エンリッチメント」といい、近年動物園での野生動物飼育によく用いられているものです。

犬と共に暮らすことを選んだのなら、飼い主としてできる限り彼らの生態に合わせた環境を整え、正常行動を発現する自由を与えなければならないでしょう。

母の愛情と科学者の知識

「動物愛護」が追求するのは母のような深い愛情、「動物福祉」では動物に対する科学的な知識が求められます。

犬を幸せにするためには、深い愛情だけでなく、犬という動物に対する知識も必要です。

ストレスを抱えた犬は、晩酌とNetflixではリラックスできません。犬には群れの一員としての規則正しい生活、安心できる巣穴、栄養バランスのとれた食事、そして毎日の縄張り探索が必要です。

彼らを理解する知識を持ち、深い愛情をもって愛犬に接することで、犬たちは最高のパートナーとなってくれます。

まとめ

「動物愛護」「動物福祉」、どちらも欠けてはいけない大切な概念です。犬には犬の、そして人間には人間の幸せがあります。

愛するために学ぶ。相手を知りたいと思う気持ちがさらに愛情を深めてくれるでしょう。

「あなたの愛犬が幸せであることを証明する客観的な事実5つ」という最初の質問に答えるには、愛情と知識、「動物愛護」と「動物福祉」両方の考え方が必要です。

あるサイトの「犬が言葉を話せたら1番聞きたいこと」ランキングでは、およそ7割の飼い主が「愛犬が幸せを感じているか?」聞きたいと回答しています。

愛犬が幸せであることを証明する客観的事実が見つかれば、愛犬の最期を後悔なく迎えられるのかもしれません。

  • 著者プロフィール
  • この著者の新着記事

宮﨑あぶり

宮﨑あぶり

フリーランスwebライター。愛犬との出会いをきっかけに動物行動学に興味を持ち、学んでいる「いち愛犬家」です。「愛情は知識により機能する」をモットーに エビデンスに基づいた情報提供を心がけています。

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