愛犬をしつける時に大事な要素はいくつかあり、今まで学習理論・教え方・ごほうびと罰・合図・環境などをお伝えしてきました。今回はしつけを成功させるための重要な要素「難易度」についてお伝えしていきます。
しつけの難易度とは?
教える時の基本は簡単なことから教えて、徐々に難易度を上げていくことです。たとえば人間でも後方宙返り(バク宙)を教えたいのなら後転(後ろ回り)から教えて後方転回(バク転)を経て後方宙返り(バク宙)を教えるのが普通です。いきなりバク転やバク宙を教えないし、教える過程では補助(サポート)も必要になります。
ワンちゃんのしつけも同じで、教えたいことと同じ系統の簡単なことから始めて、失敗しないように飼い主さんがしっかりサポートしてあげることが大事です。
ここからが本題ですが、難易度と聞くとオスワリよりレトリーブのほうが難しいなど「教える行動の難易度」と考える人が多いでしょう。もちろんそれもありますが、今回お伝えする難易度は教える行動に関係なくどんなことにも共通する難易度です。
比較的簡単なオスワリでもその難易度を理解せずに教えると、失敗を繰り返してちゃんと覚えてくれないということもあります。「しつけの難易度」を理解することによって成功率が上がり確実に覚えてもらうことができます。次の項目ではどんなことにも共通する難易度について考えていきましょう。
✅ 簡単な行動から教えて、徐々に難しい行動を教えていく
✅ 失敗しないように飼い主さんがしっかりサポートしてあげる
難易度を決める3つの要素
どんなことにも共通する難易度とは「環境」「時間」「距離」の3つです。どれかひとつでも難易度が高い状態で教えようとすれば、たとえ簡単な行動であっても難しくなります。では、それぞれの項目で簡単・難しいの基準を解説していきます。
1️⃣ 環境
環境とは「場所+状況」のことです。難易度が低いのは慣れている場所で、一般的にワンちゃんは自宅が一番安心できるので最初に教えるのには適している場所と言えます。
自宅の中でも当然難易度の変化はあり、いつもいる場所(リビングなど)は難易度が低く慣れていない場所は高くなっていくので注意が必要です。お風呂嫌いならお風呂場は高難度になるし、ベランダなども同様に高くなる。自宅以外だとそれまでのワンちゃんの経験や慣れが影響するので、飼い主さんが愛犬の様子を見て判断する必要があります。
判断基準は行った回数ではなく、愛犬がその場所に良いイメージを持っているかどうかが重要です。良いイメージな場所ほど難易度は低く、悪いイメージの場所は高くなる。初めての場所はフラットだと思いがちですが、怖がりのワンちゃんの場合は不安が強く出るし好奇心旺盛なら周囲が気になって教えるどころじゃないので高難度だと思ったほうがいいでしょう。
「状況」は愛犬の性格も影響するし、他に人やワンちゃんがいるか?音や匂いなど気が散るものはあるか?などを考慮して他に人や物なのど障害があれば難易度は高くなります。
一番難易度が低いのは安心できる慣れた場所で飼い主さんと2人きりという条件が基準になり、他に人や気が散る物(おもちゃや食べ物)があれば難易度は高くなりますが、それが好きでも嫌いでも難易度の高低はさほど変わらないと思います。なぜなら好き嫌いどちらでも意識するという意味では同じだから。好きでも嫌いでもなくフラットということはあまりないので、何かしらの人・物などの対象があれば難易度は少なからず上がると考えましょう。
2️⃣ 時間
継続時間のことで「終了の合図」を言うまでし続けられる時間です。「オスワリ」と合図を言って何秒くらい継続できますか?飼い主さんが何も言わず動かずに待って10秒以上継続できたらけっこうすごいと思います。
もちろん短い時間ほど簡単で長時間ほど難しくなります。だから、初めて教える行動なら最初は成功したらすぐに終わりの合図を言ってあげるところからはじめます。それから少しづつ様子を見ながら成功できる範囲で時間を延ばしていくことで長時間でもできるようになっていくんです。
職業犬なら1時間以上オスワリやフセができたりしますが、家庭犬はそんな長時間継続する必要はないですよね。普段の生活でこれくらい継続できたらいいなと思う時間を目標にしてがんばれば大丈夫です。だいたい30秒もできれば実用性は十分だと思います。もし優良家庭犬試験や資格などを目指すなら10分はできたほうがいいでしょう。
ちなみに行動や姿勢によっても難易度は変わり、オスワリよりフセのほうが動きづらいので難易度は低く、立っている状態のほうが動きやすいので難易度は高くなります。
3️⃣ 距離
飼い主さんと愛犬との距離のことで、距離が近いほど簡単で遠いほど難しくなります。
【 遠距離デモ動画 】
単純に距離と言っても「離れたところから合図」と「合図を言ってから離れる」のは別物で、それぞれ練習する必要があります。デモ動画では最初に「マテを言って離れる」「離れた場所からオイデで呼び戻す」をやっています。
オヤツを使って教える性質上、手の届く距離で対面が基本。でも、それだけで教えると「オスワリ」と言っても距離が離れていたり対面していないと言うことを聞いてくれなかったりします。遠くても合図を聞いてもらうことはとても大事で、特に日常的に使うオスワリ、フセ、マテなどは遠距離で使えないと意味がないと言ってもいいくらいです。
遠距離で合図どおり動いてもらえるようになるとぐっと実用性が上がり、愛犬との暮らしでとても役に立つようになるので遠距離合図できるようにがんばってみてください。
✅ 環境(場所+状況)・時間・距離が難易度の3要素
しつけ成功の秘訣
難易度を理解したら、それをどう活かして愛犬をしつけ(教え)るかです。ステップアップ手順と大事なポイントを「オスワリ」を例にしてお伝えしていきます。
手順・ステップアップ
最初は「環境」「時間」「距離」のすべてを低い難易度からはじめます。
【 環境 】自宅リビングなど愛犬が一番安心できる場所で飼い主さんと1対1で
【 時間 】オスワリの姿勢になりお尻が床に着いたらすぐに終了の合図を言ってオヤツをあげる(1秒未満でOK)
【 距離 】手が届くくらいの距離
確実にできるようになったらステップアップしていきます。
1. 時間だけを延ばす
基本0.5秒刻みくらいで様子を見ながら延ばす時間を調整
2. 距離だけを伸ばす
10cmくらいなど短い距離でいいので徐々に伸ばす。時間は1秒未満くらいの短時間でOKです。
3. 遠い距離で時間を延ばす
目標の距離離れて短時間オスワリできるようになったら、その距離を保ったまま時間を延ばしていく。
4. 環境を変える
十分な距離・時間でオスワリができるようになったら「環境」を変えて1⃣~3⃣の手順で教えていきます。その場合も徐々にが基本で、いきなり屋外で人や他犬がいるような環境でやるのはNGです。
たとえばご家族がいるなら同じ場所で家族が近くにいる状況でやってみます。その場合ご家族との距離を変えることで難易度を調節できるのでおすすめです。気になるけどオスワリはしてくれるくらいの距離にするのが効果的。お一人ならオヤツやおもちゃなどを近くに置くことで難易度を調整できます。
自宅のどこでも離れて長時間オスワリができるようになったら自宅以外の色々な場所でオスワリできるようにしていきます。
大事なポイント
しつけがうまくいかない方で多いのは一度にたくさんのことを教えたり、大きくステップアップしすぎたり手順を間違えてしまうことが原因です。
【 ステップアップ 】
ステップアップを短い時間・距離で解説しました。もっと大きく早くしたい気持ちはわかりますが、そのためには飼い主さんのスキルが必要です。
飼い主さんもワンちゃんも慣れてくるとステップアップ幅は自然と大きくなるしスピードアップしていきます。最初に焦って欲張ると失敗が多くなり、結果できるようになるまで余計に時間がかかるし最悪覚えてくれないことだってあります。急がば回れの精神で確実にステップアップすることが成功への秘訣です。
【 ひとつずつ確実に 】
手順は「時間を延ばす → 距離を伸ばす→環境を変える」で、距離を延ばす時は時間は短い時間から始めること。そして時間と距離を同時にステップアップするのはNG。たとえ人も愛犬もしつけに慣れていたとしても、同時に2つのことを教える・覚えるのはとても難しいことなんです。
【 練習と本番 】
しつけを失敗するよくある要因のひとつは「自宅で出来るから自宅以外・散歩中なども同じようにできる」と誤解していることです。
スポーツに例えるなら、練習では恵まれた成功しやすい環境でやって自信をつけ感覚を養います。しかし練習でとても高度なプレーができるようになったとしても、試合でいつもと違う会場で多くの観客に見られ、本気で向かってくる相手に練習と同じパフォーマンスでプレーするのはとても難しいこと。
しつけなら自宅で教えるのは練習であり自宅外・散歩は本番(試合)になります。練習で出来ないことは本番で出来るわけがないので練習はとても大事。でも本番ではどんな人・物・音が愛犬の集中力を削り、いつそれが襲ってくるかわからない。。。そんな状況では練習の半分くらいのパフォーマンスが出れば良しと考えてください。だから自宅外ではできる限り最小限の難易度で始めて、一から教え直すくらいの気持ちでやりましょう。
✅ 環境・時間・距離すべて低い難易度から始める
✅ 時間と距離を同時にステップアップするのはNG
✅ 自宅は練習、それ以外は本番
しつけの難易度ご理解いただけたでしょうか。今回一番お伝えしたかったのは自宅で出来るけど外・お散歩中に出来ないのは当たり前で、自宅以外でもできるようにもまた一から教えてあげる必要があるということ。
難易度を理解し考えて教えていけば難しいことではありません。ぜひ実践してみてください。
【笑犬】のっぽ さんの詳しいプロフィールはこちらです♪