犬に銀杏(ぎんなん)は与えてはいけません。拾い食いに気づいたら、食べた時刻・個数・殻の有無をメモし、様子を見ずに動物病院へ連絡してください。嘔吐やふらつき、けいれんが出たら緊急です。
9月から11月は、イチョウの実が街路樹から落ちる季節です。銀杏は独特の強いにおいを放つため、普段は拾い食いをしない犬でも鼻を近づけます。この記事では、銀杏の「何が」「どのくらいで」危険なのかを、公的機関の数値をもとに整理します。そのうえで、摂取してからの経過時間ごとに、家庭で取るべき行動を示します。

結論:銀杏は犬に有毒。1粒でも「時刻・個数・殻の有無」を記録して動物病院へ
銀杏には4′-O-メチルピリドキシン(ギンコトキシン)という神経毒が含まれます。この成分はビタミンB6の働きを妨げ、けいれんを引き起こします。日本中毒情報センターの資料によれば、この成分は加熱しても消えません。つまり、生でも、炒っても、茶碗蒸しに入っていても危険です。
犬に対する「安全な量」を示した獣医学的なデータは存在しません。したがって、家庭での判断基準はこうなります。
今すぐ動物病院へ電話すべきケース
- 銀杏を1粒でも飲み込んだ可能性がある
- 殻ごと、または外皮(オレンジ色の果肉部分)ごと食べた
- すでに嘔吐・よだれ・ふらつきが出ている
- 体重5kg未満の小型犬・子犬・シニア犬である
緊急度の早見表
| 状況 | 緊急度 | 取るべき行動 |
|---|---|---|
| けいれん・意識がもうろう・呼吸が苦しそう | 最緊急 | すぐ病院へ搬送。移動中は体を支え、頭を打たせない |
| 嘔吐を繰り返す・立てない・ふらつく | 緊急 | 当日中に受診。夜間でも救急へ連絡 |
| 飲み込んだが症状はまだない | 準緊急 | すぐ電話で相談。催吐処置の適否を判断してもらう |
| においを嗅いだ・外皮を踏んだだけ | 経過観察 | 足と口周りを洗い、24時間は皮膚と様子を確認 |
症状が何度も出る嘔吐については、犬が嘔吐を繰り返す|何度も吐く原因と今すぐ受診すべき危険サインもあわせて確認してください。
銀杏の何が危険か|3つのリスクを切り分ける
「銀杏は危険」と一括りにされがちです。しかし実際には、危険の種類が3つあります。どれに当たるかで、家庭での対応も、病院での処置も変わります。

①神経毒による中毒|4′-O-メチルピリドキシン
これが銀杏中毒の本体です。日本中毒情報センターの情報提供資料(2024年10月)は、次のように説明しています。
有毒成分である4′-O-メチルピリドキシンはビタミンB6と構造が似ており、ビタミンB6の作用を阻害して、中枢神経系の異常興奮を起こします。熱に強く、煮る、焼くなど加熱調理しても消失しません。
出典:公益財団法人日本中毒情報センター「ギンナンの食べ過ぎに注意しましょう!」(2024年10月)
体内では、ビタミンB6が神経の興奮を抑える物質(GABA)の合成に使われます。メチルピリドキシンはその働きを妨げます。結果として神経が過剰に興奮し、けいれんが起こります。
重要なのは「加熱で消えない」という点です。人間用に調理した銀杏の落し物や、茶碗蒸しの具を犬が食べても、毒性は変わりません。
②殻・種による消化管の物理的損傷
銀杏の硬い殻は、割れると鋭い縁になります。小型犬が殻ごと飲み込むと、食道や胃腸を傷つける恐れがあります。複数個を飲み込めば、消化管閉塞のリスクもあります。
この場合、中毒とは別に外科的な対応が必要になることがあります。病院に「殻ごとか、殻をむいた実か」を必ず伝えてください。判断が変わります。
硬い異物を飲み込んだ場合の一般的な考え方は、犬の誤飲・誤食の対処法|危険物一覧と受診の目安で解説しています。とうもろこしの芯や桃の種と同じく、「小さいから大丈夫」とは言えない種類のリスクです。
③外皮(外種皮)による接触皮膚炎|見落とされやすい第3のリスク
あの強烈なにおいの正体は、銀杏の外側を包む果肉状の部分(外種皮)です。ここにはギンコール酸が含まれます。ギンコール酸は、ウルシのかぶれ成分であるウルシオールと化学的に近い物質です。
人では、素手で銀杏を拾うとかぶれることがよく知られています。犬でも同じことが起こりえます。具体的には、次の経路です。
- 肉球・指の間:落ちた実を踏んでつぶす
- 口周り・鼻先:においを嗅ぐために鼻を押しつける
- 体表:においの強い場所に体をこすりつける
症状は赤み、腫れ、しつこい痒みです。多くは接触から数時間〜2日後に出ます。散歩から帰った犬が足をしきりに舐めていたら、この可能性を疑ってください。指の間の炎症は、犬の皮膚トラブルの記事で扱う膿皮症とは原因が異なります。
帰宅後30秒でできる対策:銀杏のにおいがする場所を歩いた日は、四肢をぬるま湯で洗い、指の間まで拭き取ります。においが残っていれば、外皮が付着しています。犬が舐めれば経口摂取にもつながるため、拭くだけでなく洗い流してください。
何個から危険?体重別の目安と「安全量は0個」という結論
「何個までなら平気か」は、飼い主が最も知りたい点でしょう。しかし、犬の中毒量を示した公的データはありません。そこで、人のデータを手がかりに考えます。
日本中毒情報センターの同資料には、具体的な数値があります。
一度に何個までなら食べても大丈夫と一概には言えませんが、5歳以下の小児では6〜7個、大人では約50個食べてけいれんが出現した例があります。
出典:公益財団法人日本中毒情報センター「ギンナンの食べ過ぎに注意しましょう!」(2024年10月)
同資料によれば、2014〜2023年の10年間に中毒110番へ寄せられたギンナン関連の相談は275件で、そのうち68%が5歳以下の小児でした。体が小さいほどリスクが高いことを示す数字です。
人の数値を犬の体重に当てはめると
5歳児の体重をおよそ18kgとすると、6個でけいれんが出た例は体重1kgあたり約0.33個に相当します。これを犬の体重に単純換算したのが次の表です。
| 犬の体重 | 人の小児でけいれん報告があった量に相当する個数 | 家庭での扱い |
|---|---|---|
| 3kg(チワワ・トイプードルなど) | 約1個 | 1粒でも要連絡 |
| 5kg(マルチーズ・ヨーキーなど) | 約1.6個 | 1粒でも要連絡 |
| 10kg(柴犬・フレンチブルドッグなど) | 約3個 | 2粒以上は受診前提 |
| 20kg(ボーダーコリーなど) | 約6個 | 3粒以上は受診前提 |
| 30kg(ゴールデンレトリバーなど) | 約10個 | 5粒以上は受診前提 |
※この表は人のデータを体重比で外挿した参考値です。犬の安全量を保証するものではありません。犬は人よりビタミンB6の要求量や代謝が異なり、より少量で中毒を起こす可能性があります。
結論として、犬にとっての安全量は0個です。上の表は「これ以下なら大丈夫」という線ではありません。「これを超えたら間違いなく緊急」という線として読んでください。
銀杏1粒はどのくらいの重さか
殻付きの銀杏は1粒およそ2.5〜3g、殻をむいた実は1.5〜2gです。3kgの小型犬が1粒食べれば、体重比では体重60kgの人が40g(20粒前後)を一度に食べた計算になります。「たった1粒」という感覚が、いかに当てにならないかがわかります。
症状が出るまでの時間と経過|摂取後0〜24時間の時間軸
銀杏中毒は、食べた直後には何も起こらないことが多い中毒です。ここが最も危険な点です。「食べたけど元気だから大丈夫」と判断した数時間後に、けいれんが始まることがあります。
| 経過時間 | 起こりうること | 家庭での行動 |
|---|---|---|
| 0〜1時間 | 無症状のことが多い。よだれ、口をくちゃくちゃさせる程度 | この時間帯が最重要。病院へ電話し、催吐処置の可否を相談する |
| 1〜6時間 | 嘔吐、下痢、食欲低下、落ち着きのなさ | 受診。吐いた物を写真に撮る(殻の破片の有無を確認) |
| 1〜12時間 | ふらつき、歩行異常、瞳孔の異常、震え、けいれん発作 | 直ちに搬送。けいれん中は無理に押さえつけない |
| 12〜24時間 | けいれんの再発、脱力、体温の異常 | 自宅に戻っていても24時間は目を離さない |
| 24時間以降 | 殻を飲んでいた場合、腸閉塞の症状(吐き続ける・便が出ない) | 排便を確認する。出ないまま吐くなら再受診 |
催吐処置が有効なのは、原則として摂取から1〜2時間以内です。この時間を逃すと、胃から先に進んでしまいます。だからこそ「0〜1時間」の電話が決定的に重要になります。
けいれんと震えは見た目が似ていますが、意味が違います。見分け方は犬が震える原因|寒さ・恐怖・痛み・病気の見分け方と受診目安で詳しく解説しています。
食べてしまった直後にやること・やってはいけないこと
やること(5分以内)
- 口の中に残っているものを取り除く:噛まれないよう注意しながら、指で掻き出します。無理なら中止してください。
- 時刻をメモする:スマートフォンで現在時刻をスクリーンショットするのが確実です。
- 残りの銀杏を確保する:現場に落ちていた実や、食べ残しをビニール袋に入れます。個数の推定材料になります。
- かかりつけ、または夜間救急に電話する:移動を始める前に電話してください。準備の有無で処置開始までの時間が変わります。
- 水は自由に飲ませてよい:ただし無理に飲ませないでください。
やってはいけないこと
- 自己判断で吐かせない。塩、食塩水、オキシドール、指を突っ込む——すべて危険です。
- 牛乳を飲ませない。毒を薄める効果はなく、下痢を招くことがあります。
- 「様子を見る」で一晩過ごさない。症状は最大12時間遅れて出ます。
- けいれん中に口に手を入れない。噛まれる危険があり、犬が舌を飲み込むこともありません。
塩による催吐が特に危険なのは、それ自体が食塩中毒を引き起こすためです。また、すでに神経が興奮している状態で吐かせると、吐いた物が気管に入る誤嚥(ごえん)のリスクが高まります。催吐は、麻酔科的な管理ができる病院で行う処置だと考えてください。
動物病院に伝える5項目

電話口で慌てないよう、伝える内容を5つに絞ります。
| 項目 | 伝え方の例 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| ①食べた時刻 | 「15分前、17時10分ごろです」 | 催吐処置が可能な時間内かを判断する |
| ②個数(推定でよい) | 「3〜5粒だと思います。多くても5粒です」 | 中毒量の見積もりに使う。幅で伝えてよい |
| ③殻・外皮の有無 | 「殻付きのまま。外の果肉もついていました」 | 閉塞リスクと皮膚炎リスクの判断に直結する |
| ④体重と年齢 | 「4.2kg、7歳のトイプードルです」 | 薬用量の計算にそのまま使われる |
| ⑤現在の症状 | 「今はよだれだけ。吐いていません」 | 緊急度の判定。受け入れ準備が変わる |
持病や常用薬があれば、あわせて伝えてください。特にてんかんの既往がある犬は、けいれんのリスクが上がる可能性があります。
判断に迷ったときの相談先
夜間でかかりつけが閉まっている場合、公益財団法人日本中毒情報センターの「中毒110番」が参考になります。一般向けに365日24時間対応しています(大阪 072-727-2499/つくば 029-852-9999)。ただしこれは人の中毒を主な対象とする窓口です。犬の治療方針そのものは、動物病院の判断が必要です。夜間救急動物病院の連絡先を、今のうちにスマートフォンに登録しておくことをおすすめします。
動物病院で行われる処置
何が行われるかを知っておくと、受診のハードルが下がります。一般的には次の流れです。
- 催吐処置:摂取から1〜2時間以内で、けいれんがない場合に選択されます。
- 活性炭の投与:消化管に残った毒物の吸収を抑えます。
- ビタミンB6(ピリドキシン)の投与:メチルピリドキシンが阻害した働きを補う、中毒治療の中心です。人のギンナン中毒でも標準的に用いられます。
- 抗けいれん薬:発作が起きている場合に使用します。
- 点滴:脱水の補正と、毒物の排泄促進のために行われます。
- レントゲン検査:殻を飲んだ疑いがある場合、位置と個数を確認します。
ビタミンB6の投与は、家庭で真似できる処置ではありません。市販のサプリメントを自己判断で与えても、必要な量・投与経路が違います。過剰投与は、それ自体が神経障害を起こします。
秋の散歩で拾い食いを防ぐ3つの対策

銀杏中毒で最も確実な対策は、口に入れさせないことです。秋に取れる手は3つあります。
①9〜11月はイチョウ並木のルートを外す
最も効果が高く、最も簡単な対策です。イチョウの実が落ちるのは9月下旬から11月上旬に集中します。この6週間ほど、散歩コースを1本ずらすだけでリスクの大半が消えます。
なお、実が落ちるのは雌株(メスの木)だけです。街路樹には雄株も多く植えられています。強いにおいがしない並木なら、雄株の可能性が高いといえます。
②「ちょうだい」と「おいで」を、秋が来る前に仕上げる
口に入れてしまった後に取り返せるかどうかは、日頃の練習で決まります。無理に口をこじ開けると、犬は飲み込む速度を上げます。犬の拾い食いをやめさせる方法|散歩中の予防としつけ手順で、交換して差し出させる手順を解説しています。
また、落ちている物に向かって走り出す前に呼び戻せれば、そもそも口に入りません。犬の呼び戻し「おいで」の教え方も併読してください。
③リードを短く持ち、地面を先に見る
伸縮リードは、秋の落下物シーズンには不向きです。犬が地面に到達するまでの距離が長く、制止が間に合いません。銀杏やイガのある時期は、1.2m前後の固定長リードに切り替えるのが現実的です。リードの選び方は犬のリードの選び方|長さ・素材と伸縮リードの注意点で解説しています。
秋の落下物クラスター:あわせて読みたい
よくある質問(FAQ)
Q1. 銀杏を1粒だけ食べました。元気なら様子を見ていいですか?
いいえ、電話だけでもしてください。銀杏中毒の症状は摂取から1〜12時間後に出ます。食べた直後に元気なのは当然で、無症状は安全の証拠になりません。特に体重5kg未満の犬では、1粒が体重比で人の20粒相当にあたります。電話で状況を伝えれば、受診が必要かを獣医師が判断してくれます。
Q2. 加熱した銀杏(茶碗蒸しや炒り銀杏)なら大丈夫ですか?
いいえ、危険度は変わりません。日本中毒情報センターの資料は、有毒成分の4′-O-メチルピリドキシンについて「熱に強く、煮る、焼くなど加熱調理しても消失しません」と明記しています。むしろ調理済みの銀杏は殻がむかれ、においも食欲をそそるため、犬が一度に多く食べてしまう危険があります。食卓や、調理中のキッチンから目を離さないでください。
Q3. 殻を飲み込んだかどうかわかりません。どう確認しますか?
確実な確認方法は、レントゲン検査です。家庭でできるのは、(1)現場に残った殻の数を数える、(2)吐いた物に殻の破片がないか写真を撮って確認する、(3)以後48時間の便に殻が出てくるか確認する、の3点です。殻が出ないまま吐き続ける、便が出ない、お腹を触ると痛がる——このいずれかがあれば、閉塞を疑って再受診してください。
Q4. 銀杏の外皮(オレンジ色の部分)を踏んだだけでも問題ですか?
皮膚炎のリスクがあります。外皮にはギンコール酸が含まれ、ウルシかぶれに近い接触性皮膚炎を起こすことがあります。帰宅後すぐに四肢をぬるま湯で洗い、指の間まで洗い流してください。放置すると犬が舐めて経口摂取につながります。赤み・腫れ・舐め続ける様子が24時間以上続く場合は、皮膚科的な診察を受けてください。
Q5. 犬が銀杏の葉を食べました。葉も危険ですか?
イチョウの葉にもギンコール酸が含まれますが、中毒の主因である4′-O-メチルピリドキシンは種子(銀杏)に多く含まれます。落ち葉を少量かじった程度で重篤な中毒に至る可能性は、実を食べた場合より低いと考えられます。ただし葉を大量に食べれば消化不良や嘔吐の原因になります。また、落ち葉の下には実が隠れていることが多く、「葉だけ」と断定しにくい点にも注意が必要です。
Q6. 猫が銀杏を食べた場合も同じですか?
猫でも同じ神経毒のリスクがあります。むしろ猫は犬より体が小さく、肝臓での解毒経路にも制約があるため、より慎重な対応が必要です。対処の原則(自己判断で吐かせない・時刻と個数を記録する・すぐ病院に連絡する)は犬と同じです。ただし薬用量や処置の選択は種によって異なるため、必ず動物病院の指示を仰いでください。
まとめ|秋の6週間だけ、ルートを1本ずらす
- 銀杏の有毒成分は加熱しても消えない。調理済みでも危険。
- 犬の安全量は0個。1粒でも病院に電話する。
- 症状は1〜12時間遅れて出る。無症状は安全の証拠にならない。
- 催吐処置が有効なのは原則1〜2時間以内。だから最初の電話が重要。
- 殻ごとか、実だけかを必ず伝える。閉塞リスクの判断が変わる。
- 外皮は接触皮膚炎の原因。踏んだだけでも足を洗う。
- 最強の対策は9〜11月にイチョウ並木を避けること。
秋の散歩は、犬にとって最も情報量の多い季節です。だからこそ、危険も増えます。今年の秋は、いつものコースを一度見渡してみてください。イチョウの木が1本でもあるなら、ルートを1本ずらす価値があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師による診断・治療の代替となるものではありません。愛犬の体調に異変を感じた場合は、速やかにかかりつけの獣医師にご相談ください。
参考・出典
- 公益財団法人 日本中毒情報センター「ギンナンの食べ過ぎに注意しましょう!」情報提供資料(2024年10月)
- 公益財団法人 日本中毒情報センター 中毒110番 電話サービス(一般向け・365日24時間)
- Ginkgotoxin(4′-O-methylpyridoxine)のピリドキサールキナーゼ阻害作用に関する薬理学的報告
- ギンコール酸(ginkgolic acid)の接触皮膚炎惹起作用に関する報告
