結論から。台風や大雨のあとは、よどんだ水たまり・ぬかるみ・川辺を避けてください。犬のレプトスピラ症は8〜11月に発生が集中し、国内の確定例では致死率53%という報告があります。そして混合ワクチンを打っていても防げない型があります。この記事は「避ける場所」「気づくサイン」「ワクチンの限界」を数値で整理します。
レプトスピラ症は犬の病気でありながら、飼い主自身も感染する人獣共通感染症です。家族の健康問題として読んでください。
結論|台風・大雨の後に避けるべき場所と、避けなくていい場所
まず行動に直結する部分だけまとめます。レプトスピラは中性〜弱アルカリ性の淡水と湿った土壌を好み、海水中と乾いた砂では生存できないと推測されると神奈川県獣医師会は説明しています。つまり「水辺は全部危ない」ではありません。
| 場所 | リスク | 理由 |
|---|---|---|
| よどんだ水たまり | 高い | 流れがなく、菌を含む尿が薄まらない |
| ぬかるんだ土・泥 | 高い | 湿った土壌で長期間生存できる |
| 河川敷・増水後の川辺 | 高い | 上流の汚染水と土が流れ着く |
| 水田・農業用水路 | 高い | 人の感染例でも報告が多い環境 |
| 流れの速い川の本流 | 中 | 希釈されるが接触は避けたい |
| 海・海岸の乾いた砂 | 低い | 海水中・乾燥環境では生存できないとされる |
| 舗装された乾いた道 | 低い | 乾燥に弱い |
行動としては次の4つです。
- リードを短く持つ(神奈川県獣医師会も明記)。水たまりに入る前に止められる長さにします。
- 地面の水を飲ませない。口や鼻の粘膜から感染します。
- 散歩コースを一時的に変える。河川敷・田んぼ沿い・未舗装の公園を外します。
- 帰宅後に足を洗って「乾かす」。レプトスピラは乾燥に弱いため、乾かすこと自体が対策になります。
「台風から3日経てば安全」は成り立たない
ここが多くの記事と違う点です。レプトスピラの環境中での生存期間は、淡水中で数か月、水で飽和した土壌で183日という報告があり、河川土壌では汚染から4か月後でも病原性レプトスピラが検出されたという研究もあります(Pathogenic Leptospira contamination in the environment: a systematic review, 2024 ほか)。
つまり台風の後に増えるのは「菌の寿命」ではなく「菌の分布範囲」です。洪水で汚染された水と土が広い範囲に流れ出すため、普段は安全だった散歩道が一時的に感染源になります。そして水が引いても、ぬかるみが乾くまでリスクは残ります。
だから判断基準は日数ではなく、「そこが今、湿っているか」です。大雨の直後1週間はコースごと避け、そのあとは「水たまりとぬかるみが残っている場所だけ避ける」に切り替えてください。地面が完全に乾いた舗装路なら、翌日でも通常どおり歩けます。
台風の前後は気圧や騒音で体調も崩しやすい時期です。あわせて犬が台風で体調不良になる?低気圧で元気がない原因と見分け方も確認しておくと、「感染症の症状」と「台風そのものの不調」を切り分けやすくなります。

レプトスピラ症とは|ネズミの尿が出発点になる細菌感染症
レプトスピラ症は、らせん状の細菌「病原性レプトスピラ」による感染症です。日本では家畜伝染病予防法の届出伝染病で、診断した獣医師には届出義務があります。人では感染症法の4類感染症(全数把握)に指定されています。古くは人の病気として「秋疫(あきやみ)」「七日熱(なぬかやみ)」と呼ばれていました。
感染の流れは3ステップ
- 保菌動物の腎臓に菌がすむ。野ネズミ・ドブネズミが中心ですが、イノシシ、タヌキ、ハクビシン、タイワンリス、ウシ、ブタなど多くの哺乳類が保菌します。
- 尿とともに菌が排出される。排出された菌が淡水や湿った土壌を汚染します。
- 犬や人が接触して感染する。経口(飲む・舐める)と経皮・経粘膜(皮膚の小さな傷、目・口・鼻の粘膜)の両方から入ります。
重要なのは「ネズミを見ていなくても感染する」という点です。飼い主が感染源をその場で特定することはできません。だから「ネズミがいる場所を避ける」ではなく「よどんだ淡水とぬかるみを避ける」という、目で判断できるルールに落とす必要があります。
都市部でもゼロではない
埼玉県獣医師会は、木造家屋や飲食店の多い路地・地下街にもネズミが住みつくため、都市部でも水や食物の汚染、咬傷を介した感染リスクがあると指摘しています。神奈川県では2021年に市中感染と考えられる人の症例が届出されました。「田舎の病気」ではありません。
潜伏期間は数日〜14日
神奈川県獣医師会の資料では、犬の潜伏期間は数日〜14日程度とされています(海外の獣医学資料では4〜20日とする記載もあります)。ここが見落としの原因です。水辺に行った当日ではなく、1〜2週間後に発症するため、飼い主は「水たまり」と「今の症状」を結びつけられません。
対策は単純です。台風後や河川敷に行った日をカレンダーにメモする。それだけで、2週間以内に体調を崩したときに獣医師へ決定的な情報を渡せます。
症状|「発熱で気づく」は国内データと合っていない
ここが本記事でもっとも強調したい部分です。国立感染症研究所の小泉信夫氏らは、2007年8月〜2011年3月に10県(茨城・千葉・三重・宮崎・佐賀・福岡・熊本・鹿児島・長崎・沖縄)で、臨床的にレプトスピラ症と診断された犬283頭を検査し、83頭を確定例として報告しています(IASR Vol.37 p111-112, 2016)。その初診時の臨床症状の内訳が、通説とずれています。
| 初診時の症状 | 確定例83頭での割合 | 飼い主が気づけるか |
|---|---|---|
| 黄疸(白目・歯ぐき・皮膚が黄色い) | 78% | 見ればわかる。最重要サイン |
| 嘔吐 | 71% | 気づきやすい |
| 粘膜の充出血(歯ぐきの赤み・出血) | 41% | 口を開けば確認できる |
| 発熱 | 13% | 家庭では測りにくい |
記録されていた発熱は13%にすぎません。「熱が出たら疑う」という一般的な説明に従うと、ほとんどの症例を取りこぼします。家庭で追うべきサインは黄疸(78%)と嘔吐(71%)です。この2つは獣医師の器具がなくても確認できます。
同じ報告での致命率は53%でした。確定診断された犬のおよそ半数が亡くなっています。感染犬の年齢は生後5か月〜13歳(中央値5歳)、オスが63%、猟犬38%・ペット62%。一般家庭のペットが6割以上という点も押さえておきたい数字です。
黄疸のセルフチェック手順
- 自然光の下で見る。室内の電球色の照明だと黄色みが判定できません。窓際か屋外で確認します。
- 白目を見る。まぶたを軽く下げ、白目部分がレモン色〜濃い黄色を帯びていないか見ます。
- 歯ぐきと舌の裏を見る。唇をめくり、ピンクであるべき部分が黄色・白っぽい・または赤黒くにじんでいないか確認します。
- 耳の内側の薄い皮膚を見る。毛の少ない部分は変色がわかりやすいです。
- 尿の色を見る。濃い黄褐色〜オレンジ色なら異常です。
尿の色は家庭でもっとも拾いやすい指標です。判定の基準は犬のおしっこの色でわかる健康状態|濃い黄・オレンジ・赤の危険度にチャートでまとめています。
重症化の3パターン
| 型 | 主な症状 | 傷む臓器 |
|---|---|---|
| 黄疸型 | 黄疸、食欲不振、濃い尿、嘔吐 | 肝臓 |
| 腎型(尿毒症型) | 多飲多尿→のちに尿が出ない、脱水、口内潰瘍、嘔吐 | 腎臓 |
| 出血型 | 歯ぐきからの出血、血便、点状出血、壊死 | 血管・消化管・全身 |
神奈川県獣医師会は、犬は他の動物より肝不全・腎不全が重度に起こりやすいと指摘しています。また、ぶどう膜炎(目の炎症)を起こすこともあります。
なお、嘔吐と腹痛は犬の膵炎でも起こり、嘔吐の繰り返し自体は多くの病気で共通するサインです。レプトスピラ症を単独で見分けることはできません。だからこそ「水辺に行った履歴」という情報が診断の決め手になります。
受診の目安|このラインを越えたら待たない
潜伏期間が数日〜14日である以上、判断の軸は「2週間以内に水辺・ぬかるみ・河川敷に行ったか」です。
| 状態 | 行動 |
|---|---|
| 白目・歯ぐき・皮膚が黄色い(黄疸) | 時間外でも即受診。夜間でも電話する |
| 歯ぐきからの出血・血便・点状出血 | 時間外でも即受診 |
| 尿がまったく出ない/極端に少ない | 時間外でも即受診(急性腎障害の疑い) |
| 嘔吐が1日3回以上、または水も飲めない | 当日中に受診 |
| 濃い黄褐色・オレンジ色の尿 | 当日中に受診 |
| 2週間以内に水辺に行き、元気・食欲が落ちた | 当日中に電話で相談 |
| 2週間以内に水辺に行き、急に水を大量に飲む | 当日中に電話で相談 |
| 水辺に行っておらず、軽い食欲低下のみ | 24時間観察。改善しなければ受診 |
脱水の有無は家庭で5秒で確認できます。手順は犬の脱水症状チェック|5秒でできる見分け方を参照してください。
受診時に必ず伝える3つの情報
これが本記事で一番実用的な部分かもしれません。レプトスピラ症の検査にはタイミングの制約があるため、飼い主の申告が検査の選択を変えます。
- 水辺・ぬかるみ・河川敷・水田沿いに行った日付。「3日前に台風のあとの河川敷を歩きました」の一言が決定的です。
- 接種している混合ワクチンの種類(何種か)と最終接種日。母子手帳やワクチン証明書を持参します。
- 症状が出た正確な日。発症からの経過日数で検体が変わります。
3番目の理由は検査方法です。神奈川県獣医師会の資料では、PCR検査の検体は発症4日以内なら血液、それ以降は尿を用いるとされています。また抗体検査はワクチン接種による抗体価上昇と区別がつかず、未接種の犬でも感染後1〜3週間で抗体価が最大になるため、発症1週間以前の抗体検査は陰性に出ることがあります。
言い換えると、「検査が陰性だったから違う」と早期に断定できない病気です。獣医師が疑いを持ち続けられるように、履歴を正確に渡してください。

ワクチンで防げるのか|「打っているから安全」が成り立たない理由
結論を先に書きます。レプトスピラのワクチンは有効ですが、カバーできる型が限られており、国内で実際に犬から検出されている主要な型とずれている可能性があります。
数字で見る「型のずれ」
| 項目 | 数値・内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 病原性レプトスピラの血清型の数 | 250以上 | 神奈川県獣医師会 |
| 病原性レプトスピラの血清群の数 | 少なくとも24 | IASR Vol.37 |
| 日本国内で報告されている病原菌型 | 14種類 | 神奈川県獣医師会 |
| 国内の混合ワクチンが主に対象とする型 | カニコーラ型・イクテロヘモラジー型の2型 | 神奈川県獣医師会 |
| 国内の犬の確定例83頭で主要だった血清群 | Hebdomadis、Australis、Autumnalis | IASR Vol.37 |
この表を並べると問題が見えます。40年以上前からカニコーラ型とイクテロヘモラジー型の不活化全菌体ワクチンが使われてきましたが、このタイプのワクチンは血清型特異的な効果しかありません。そして国内の犬83頭の調査では、主要な血清群はHebdomadis・Australis・Autumnalisであり、犬が保菌動物とされるCanicola(カニコーラ)の検出は少なかったと報告されています。
さらにHebdomadisは家畜伝染病予防法の届出対象7血清型に含まれていません。届出統計からは流行型が見えないという構造的な問題もあります。アメリカでも、従来の2型に替わってGrippotyphosaとPomonaが主要な感染血清型になってきたことが明らかになっています。
つまり「8種混合を打ったからレプトスピラは大丈夫」という理解は誤りです。ワクチンは「重症化しやすい2型を防ぐ保険」であり、「レプトスピラ症を防ぐ盾」ではありません。だから接種していても、水たまりとぬかるみを避ける行動がそのまま必要です。
自分の犬がカバーされているかを確認する手順
- ワクチン証明書を出して「何種混合」かを見る。神奈川県獣医師会の資料では、レプトスピラ症に対応しているのは7種・8種・10種の混合ワクチン、またはレプトスピラ単独の2種・4種ワクチンです。
- 6種以下ならレプトスピラは入っていません。5種・6種混合はコアワクチン中心で、レプトスピラ非対応が一般的です。
- 何種であっても「含まれる血清型名」を獣医師に確認する。種類数ではなく型名が本質です。
- 最終接種日を確認する。レプトスピラのワクチンはコアワクチンより持続期間が短いとされ、年1回の接種が推奨されます(埼玉県獣医師会も「一年に一度のワクチン接種が有効」と記載)。
- 地域の発生状況を獣医師に聞く。国内の発生は関東より西に集中する傾向が報告されています。かかりつけが地域の届出状況を知っています。
接種を前向きに検討すべき犬
埼玉県獣医師会は、次のような犬にワクチン接種を推奨しています。
- 田畑・野山・河川敷が散歩コースの犬
- キャンプやアウトドアレジャーに家族と一緒に行く犬
- ドッグランで他の犬とふれあう機会が多い犬
ドッグランが挙がっている理由は、感染犬が無症状のまま尿中に菌を排出しうるためです。デビュー前の準備はドッグランデビューの手順|入場直後の5分とマナー7か条にまとめています。
逆に、レプトスピラワクチンは他の成分に比べて接種後の副反応が出やすいと言われることがあります。室内中心で水辺との接触がほぼない犬では、接種のメリットとデメリットを獣医師と比べて判断するのが妥当です。接種する場合は、様子を観察しやすい午前中を選んでください。季節の予防全体のスケジュールは犬のフィラリア・ノミ・マダニ予防|時期・費用・薬の選び方と合わせて組むと管理しやすくなります。
飼い主への感染|犬が無症状でも家族が危ない
ここを飛ばさないでください。レプトスピラ症は人獣共通感染症で、人では感染症法の4類感染症です。
犬は「無症状の排菌源」になりうる
国立感染症研究所の報告は明確です。犬は血清型Canicolaの保菌動物として知られ、感染初期だけでなく感染後も長期間無症候のまま腎臓に菌を保菌し、尿中に排菌します。したがって、感染した犬は人への感染源になる可能性があります。
つまり「元気だから感染していない」とは言えません。これが家庭内の衛生管理を一段上げる理由です。
人の感染データ
国立感染症研究所がまとめた2016年1月〜2022年10月末の届出状況です(IASR Vol.44 p29-30, 2023)。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 届出総数 | 273例(29都道府県) |
| 国内感染例 | 257例(94%) |
| 推定感染地の上位 | 沖縄県171例(63%)、鹿児島県17例(6%) |
| 発症月 | 8月が最多95例(39%)、7〜10月に219例(90%)が集中 |
| 感染原因 | 水系感染が国内257例中206例(80%) |
| 沖縄以外の都道府県での水系感染 | 86例中47例(55%)。台風や大雨による水害、水田での農作業を含む |
| 性別・年齢 | 男性236例(86%)、年齢中央値39歳(3〜89歳) |
| 死亡例 | 2例 |
国内の具体的な洪水後の発生としては、2018年7月の尼崎市の豪雨、2019年10月の福島県での台風時の洪水によるレプトスピラ症の発生が報告されています。「台風後が危ない」は印象論ではなく、届出記録に裏づけがあります。
家庭内で守る5つのルール
- 散歩中の排泄物は流水で流す。神奈川県獣医師会は「しっかり流水(次亜塩素酸はより効果があります)にて処理」と明記しています。
- 処理のあとは必ず石けんで手洗いする。同資料でも手洗いを併記しています。
- 手に傷があるときは使い捨て手袋を使う。菌は皮膚の小さな傷から入ります。
- 室内で尿をした場所は拭き取ってから消毒する。塩素系漂白剤の希釈液が使えます(素材と換気に注意)。
- 愛猫は室内飼いを徹底する。猫の発病はまれですが、屋外で感染源に触れる機会を減らします。
そして、犬がレプトスピラ症と診断された、または強く疑われた場合は、飼い主自身も医療機関に相談してください。人でも発熱・筋肉痛・黄疸・結膜の充血などが出ます。獣医師に「家族が気をつけることはありますか」と聞くこと自体が、家族を守る行動です。

台風・大雨の後にやること|散歩ルートの見直しと足の洗い方
散歩ルートの見直し5項目
- 舗装路だけで完結するコースを1本用意しておく。大雨のあとは無条件でこちらに切り替えます。
- 河川敷・遊水地・田んぼ沿いを外す。増水後は上流の汚染水と土が流れ着きます。
- 未舗装の公園・土のグラウンドを外す。水が引いても泥は湿ったままです。
- 側溝・排水溝のそばで立ち止まらせない。においを嗅がせる時間がそのまま接触時間です。
- 時間を短く、距離を短く。気圧や気温の変化で体調も落ちやすい時期です。
雨の日のコース自体を減らしたいなら、濡れる面積を下げる装備が効きます。選び方は犬用レインコートの選び方|耐水圧の数字の読み方とサイズ実測3か所にまとめています。地面の水やものを口にする癖があるなら、犬の拾い食いをやめさせる方法が土台になります。
帰宅後の足のケア手順
レプトスピラは乾燥に弱いという性質があります。だから「洗う」で終わらせず「乾かす」まで行うことが、そのまま対策になります。
- 泥を流水で落とす。濡れタオルで拭き広げるのではなく、まず水で流します。
- 指の間、肉球の間、爪の周りを洗う。泥が残りやすい場所です。
- 下腹部とあごの下も確認する。小型犬は地面に近く、水しぶきを受けています。
- 吸水性の高いタオルで水分を移す。こするのではなく、指を1本ずつ開いて押し当てます。
- 指の間が湿っていないかを指先で触って確認する。ここが合格ラインです。
- 処理が終わったら飼い主が手を洗う。最後の1手を飛ばさないでください。
手順の詳細と「やってはいけない拭き方」は犬の足拭きの正しい手順5ステップ|指の間を「乾かす」のが指間炎を防ぐ鍵で解説しています。乾かす工程はタオルの吸水性で所要時間が変わります。吸水性を数値で見分ける方法は犬用タオルの選び方|吸水性を数字で見抜く4つの判断軸にまとめました。
濡れたまま放置すると、感染症とは別に皮膚トラブルも起こります。梅雨〜秋に多い膿皮症・マラセチアの予防にも、乾かす工程が効きます。
住環境のネズミ対策3項目
- 生ゴミを屋外に置かない。蓋つき容器に入れ、収集日まで室内保管にします。
- 床下・基礎・配管まわりの隙間をふさぐ。埼玉県獣医師会も侵入防止と定期的な駆除を挙げています。
- 屋外の水受け皿・バケツの水を溜めない。よどんだ淡水そのものを家の周りから減らします。
台風そのものへの備えは【愛犬と考える防災】ペットのための防災対策やグッズを解説も合わせて確認してください。断水時の飲水確保は、そのまま「汚れた水を飲ませない」対策になります。
よくある質問
Q. 水たまりを一瞬踏んだだけでも感染しますか?
一度踏んだだけで必ず感染するわけではありません。感染には、菌を含む水が皮膚の小さな傷や目・口・鼻の粘膜に接触する、あるいは口に入ることが必要です。ただし犬は帰宅後に足を舐めるため、踏んだ水が結果的に口に入る経路ができてしまいます。だから「踏ませない」と「踏んだら洗って乾かす」の両方が必要です。
Q. 海やプールでの水遊びは危険ですか?
レプトスピラに関しては、海水中では生存できないと推測され、乾燥した海岸の砂でも生存できないとされているため、リスクは低いと考えられます(神奈川県獣医師会)。塩素管理されたプールも同様に低リスクです。危険なのはよどんだ淡水、つまり水たまり、池、流れのない用水路、増水後の河川です。水遊び全般の注意点は犬の水遊びグッズ&プールの選び方にまとめています。
Q. 8種混合ワクチンを毎年打っています。もう心配しなくていいですか?
いいえ、行動対策は続けてください。国内で使われている不活化全菌体ワクチンは血清型特異的な効果しかなく、主な対象はカニコーラ型とイクテロヘモラジー型です。一方で日本国内では14種類の病原菌型が報告され、国内の犬の確定例83頭の調査では主要血清群はHebdomadis・Australis・Autumnalisでした。ワクチンは「重症化しやすい型の保険」であり、全型をカバーする盾ではありません。
Q. 室内飼いの小型犬でもワクチンは必要ですか?
散歩コースと生活で変わります。河川敷・田畑・未舗装の公園を歩く、キャンプに連れて行く、ドッグランによく行く——これらに当てはまるなら接種を前向きに検討する価値があります(埼玉県獣医師会の推奨条件)。完全に舗装路のみで、水辺に近づかない生活なら、副反応のリスクと天秤にかけて獣医師と判断してください。「室内犬だから不要」と自己判断で切らず、かかりつけに地域の届出状況を聞くのが正解です。
Q. 症状が出てから何日で命に関わりますか?
日数を断定できる病気ではありません。ただし神奈川県獣医師会は「甚急性の肝不全や腎不全の発症では進行が早く、治療が間に合わず亡くなってしまう場合もある」と記載しており、国内の確定例83頭の致命率は53%でした。黄疸・歯ぐきの出血・無尿のいずれかがあれば、時間外でも受診してください。「明日の朝一番で」が間に合わないことがあります。
Q. 愛犬が感染したら、家族は検査を受けるべきですか?
まず医療機関に電話で相談してください。無症状であれば検査が必須とは限りませんが、「犬がレプトスピラ症と診断された」「排泄物の処理をしていた」という情報は、人の診断で決定的な手がかりになります。人のレプトスピラ症は発熱・筋肉痛・黄疸・結膜充血などで、他の感染症と区別しにくいためです。発熱などの症状がある家族は、この情報を必ず伝えて受診してください。
Q. 大雨のあと、何日経てば河川敷の散歩を再開できますか?
日数ではなく状態で判断します。環境研究ではレプトスピラが淡水中で数か月、水で飽和した土壌で183日生存した報告があり、「○日経てば菌が死ぬ」という考え方は成り立ちません。実務的な目安は、大雨直後の1週間は河川敷コースごと避け、その後は地面が完全に乾いてから再開することです。ぬかるみが残っているなら、何日経っていても避けてください。
まとめ
- 台風・大雨のあとはよどんだ水たまり・ぬかるみ・河川敷を避ける。海水と乾いた砂はリスクが低い。
- 判断基準は日数ではなく「今、湿っているか」。菌は淡水中で数か月生存する報告がある。
- 犬の確定例91%が8〜11月に発生し、約半数が9月。人も7〜10月に90%が集中。
- 家庭で追うサインは黄疸(確定例の78%)と嘔吐(71%)。発熱は13%しか記録されていない。
- 国内確定例83頭の致命率は53%。黄疸・歯ぐきの出血・無尿は時間外でも即受診。
- 潜伏期間は数日〜14日。水辺に行った日をメモし、受診時に必ず伝える。
- ワクチンはカニコーラ型・イクテロヘモラジー型が主対象で、国内報告は14型。打っていても行動対策は必要。
- 7種・8種・10種混合、またはレプトスピラ単独(2種・4種)が対応。6種以下は非対応。
- 犬は無症候のまま尿中に排菌しうる。排泄物は流水で流し、処理後は必ず手洗いする。
- 帰宅後は洗って「乾かす」まで。乾燥に弱い菌なので、乾かす工程がそのまま対策になる。
この病気の怖さは、重症度ではなく「気づきにくさ」にあります。潜伏期間が最大2週間あり、初期症状はどの病気とも似ていて、ワクチンが安心感を与えてしまう。だからこそ、水辺に行った日をメモするという地味な習慣が、いちばん効く対策になります。今日から始めてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、獣医師による診断・治療の代替となるものではありません。愛犬の体調に異変を感じた場合は、速やかにかかりつけの獣医師にご相談ください。
参考にした一次情報
- 国立感染症研究所「イヌのレプトスピラ感染」IASR Vol.37 p111-112(2016年6月号)
- 国立感染症研究所「レプトスピラ症の発生状況」IASR Vol.44 p29-30(2023年2月号)
- 公益社団法人 神奈川県獣医師会「犬のレプトスピラ症について」(2025年1月公開資料)
- 公益社団法人 埼玉県獣医師会「水辺に注意!〜イヌのレプトスピラ症〜」(2024年11月)
- Pathogenic Leptospira contamination in the environment: a systematic review(Emerging Microbes & Infections, 2024)
- Koizumi N, et al. J Med Microbiol 62: 630-636, 2013 / 64: 288-294, 2015

