【第2回レッスン】「ほめて伸ばす」と「叱って教える」どちらが良いの?

(2026年9月更新)獣医行動学の最新の考え方(罰に頼らないしつけ)、学習理論の4つの分類、叱る前に見直したいこと、プロに相談するときのチェックリストとFAQを追記しました。

「しつけ」について本を読んだりネットで調べるとたくさんの情報があり、どの教え方が合っているのか?良い方法なのか悩んだことのある飼い主さんも多いはず。

いろいろある中でも、大きく分けると「ほめるベースの教え方 」「叱るベースの教え方」の2つになります。言葉だけ見ると真逆の教え方のようですが、実は根本となっている理論は同じなんです!

今回は
🔶 理論が同じで教え方が違う理由
🔶 どちらで教えたほう良いのか?
についてお伝えしていきます。

目次

叱るベースの教え方

強制訓練・服従訓練と呼ばれることもある方法です。もともとは軍用犬や警察犬などの職業犬に教えるための方法になります。「叱って教える」と言うと毛嫌いしたりマイナスイメージを持つ人もいますが、ちゃんとできた時や望ましい行動には「ほめる」こともします。

つまり「ダメなことはダメ」「良いことは良い」としっかり教えるというのが基本的な考え方で、ダメと伝える時にはリードを引っ張ったり強い口調で叱ったりなどの嫌悪刺激(ワンちゃんが嫌がる事)が用いられることがあります。

ほめるベースの教え方

陽性強化と呼ばれることもある教え方で、基本的に叱ることはせずに「良いこと、望ましいこと」に対してほめる(ごほうびをあげる)ことをベースにしています。わかりやすく言うとほめて伸ばす方法ですね。「ほめるだけで教えられるわけがない」という方もいますが、ほめるだけではなくちゃんと罰も使って教えます。

ほめられる行動をワンちゃんは喜んでするようになります。逆にほめられない、ごほうびがもらえない行動は基本しなくなります。つまり「ごほうびがもらえない」ことが罰になるんです!
詳しくは具体的な例を挙げて次回「学習の仕方」でお伝えします。

ポイント

✅ 叱るベース
望ましくない行動は叱り、望ましい行動はほめて教える

✅ ほめるベース
望ましい行動をほめて伸ばす。叱ることはせず、ごほうびがもらえないことが罰になる

しつけの根本となる理論

「叱る」「ほめる」教え方についてはそれぞれの中でも違ったり、両方の良いところを使い分ける方もいるなど方法はたくさんあります。しかし、どのやり方でも根本的なところでは学習理論というものを元にしています。

学習理論とはワンちゃんがどのように学習していくかの理論で、前述したようにほめる、叱る方法のどちらも「ごほうび」と「罰」を使って教えているんです。みなさんもよく聞く言葉で言うと「アメとムチ」で、それが学習理論の基本となっています。

叱るベースの罰は「嫌悪刺激」を用いることが多く、ほめるベースでは「ごほうびがない」ことを罰としています。同じ理論を元にしていて教え方が違う理由は、使う「罰の種類」が違うからなんです。

ポイント

✅ 学習(しつけ方)の基本はごほうび(アメ)と罰(ムチ)
✅ ほめる、叱るで方法が違うのは罰の種類が違うから

「叱る」「ほめる」のどちらが良いのか?

私は「ほめるベース」の方法をお伝えしています。なぜその方法を選びおすすめしているのか。理由を3つお話ししたいと思います。

✅ おすすめする理由1
叱るベースの教え方はお伝えしたとおり軍用・警察犬など職業犬を教える際に使われていた方法です。命や犯罪に関係する性質上、精度を求め厳しく指導することはしょうがなかったかもしれません。動物愛護などの声もある昨今、マイルドになってきているとはいえ強制・服従の色は少なからず残っています。

その方法が家庭犬の教え方として適しているかと考えた時、私は適していないと思い「ほめて伸ばす方法」を選択しました。

✅ おすすめする理由2
叱って教える場合はワンちゃんが「もう叱られたくない」と思うくらいじゃないと罰として成立しません。ほとんどの方は弱すぎて罰として効果がない叱り方をしていると思います。叱って治っていないなら罰になってないということです。
ワンちゃん大好きな飼い主さんが罰になるほど叱るのは難しいというのが「ほめる方法」をおすすめする理由です。

✅ おすすめする理由 3
「愛犬にとってはどちらが良いか」というのはとても大事です。
叱って教えると愛犬は「叱られたくないからやる・やらない」というネガティブな意識も出てきます。

加減を間違えると「叱られるなら下手なことをしないほうがいい」と何もせず消極的になってしまう子もいます。これは学習性無力感といって人間でもある鬱に近い状態です。そんな子になっても、言葉が通じないがゆえに飼い主さんは「おとなしくて良い子になった」と感じてしまうでしょう。それはとても怖いことですよね。

叱られるのが嫌で抵抗して噛みついてくる可能性もあります。叱って教えた結果噛むようになったと相談にくる人も実際います。ワンちゃんは意味なく噛みません。噛むにはそれだけの理由があるということを覚えておいてください。

ほめるベースだと「どうやったらごほうびがもらえるんだろう?」とワンちゃんが考えるようになります。そして自発的・積極的に行動するようになります。

うまくいかなかった場合でもワンちゃんは嫌なことはされず「なんか知らないけどごほうびもらえた♪」くらいに思うから飼い主さんを大好きになるし幸せでしょう。その場合飼い主さんは困るかもしれませんが、叱って失敗して関係が崩れたり噛むようになることはないので、成功するまでがんばればいいんです。

ほめる教え方をおすすめする理由を3つ挙げました。ただ、私は叱って教える方法を全否定しているわけではありません。はっきり言えばしつけのプロがやるなら、どちらの方法で教えてもワンちゃんは良い子になります。叱って教えても適度な強度、タイミング、方法でやるのでワンちゃんの負担も少ないはずです。

最終的に「どちらが良いのか?」は、メリット・デメリットを理解したうえで
・自分はどの方法が合っているか?
・愛犬にとってどれがいいのか?
を考えて選んだ方法が、飼い主さんと愛犬にとって一番良い方法です。

ただ、困った行動が悪化してきていると感じたらすぐにプロに相談することをおすすめします。

ポイント

✅ メリット・デメリットを理解したうえで飼い主さんがやりたい方法を選ぶ
● どちらが自分に合っているか?
● 愛犬にとってどちらが良いか?

【2026年版】いまの獣医行動学では「罰に頼らない」が基本です

この記事を最初に書いたときから、しつけをめぐる「常識」はさらにはっきりしてきました。アメリカ獣医行動学会(AVSAB)は、しつけの第一選択を正の強化(望ましい行動をほめて増やす方法)とし、体罰・威嚇・ショックカラーやスパイクカラーなどの嫌悪刺激を用いる方法は推奨しないという立場を示しています。理由は、それらが恐怖・不安・攻撃性を高めるリスクを持つからです。

本文でお伝えした「罰になるほど叱るのは難しい」「学習性無力感や噛みつきにつながることがある」という話は、まさにこの指摘と同じ方向を向いています。嫌悪刺激は、強さ・タイミングの調整が難しく、慣れてしまうと効かなくなるという扱いにくさもあります。ご家庭で取り入れるなら、やはり「ほめるベース」が現実的で安全な選択です。

学習理論の4つの分類を整理しておきましょう

「ほめる」「叱る」は、専門的にはオペラント条件づけという学習理論の中で、次の4つに整理されます。「正/負」は良い・悪いではなく、刺激を足す(正)か、取り去る(負)かという意味です。

  • 正の強化…良いことを足して行動を増やす(オスワリできたらおやつ)
  • 負の罰…良いことを取り去って行動を減らす(飛びついたら遊びをやめて離れる)
  • 正の罰…嫌なことを足して行動を減らす(叱る・引っぱる=嫌悪刺激)
  • 負の強化…嫌なことを取り去って行動を増やす(引っぱるのをやめてもらうために従う)

「ほめるベース」は正の強化+負の罰の組み合わせ、「叱るベース」は正の罰・負の強化を含む方法、と考えるとすっきりします。どちらも同じ学習理論の上にある、というのは本文でお伝えしたとおりですね。くわしい仕組みは【第3回レッスン】ワンちゃんの「学習の仕組み」と「伝え方」でお話ししています。

叱りたくなったときに、先に見直したい3つのこと

「つい叱ってしまう」という場面のほとんどは、ワンちゃんの問題ではなく環境と難易度の問題です。叱る前に、次の3つを確認してみてください。

  • 失敗できない環境をつくる…いたずらされるものは片づける、行ってほしくない場所はゲートで仕切る。叱る回数そのものを減らせます
  • 難易度を下げる…できない=わざとではなく「今の環境では難しすぎる」だけ。距離・時間・刺激の強さを一段階下げて、成功をほめられる形にします
  • 体調と痛みを疑う…急に言うことを聞かなくなった、触ると怒る、粗相が増えたといった急な変化は病気のサインのことがあります。しつけの前に動物病院で相談してください

とくに3つめは見落とされがちです。しつけでがんばる前に、体の不調がないかを確かめる。これは遠回りのようでいちばんの近道ですよ。

【2026年版】プロに相談するときのチェックリスト

本文でも「困った行動が悪化してきていると感じたらすぐにプロに相談を」とお伝えしました。ただ、日本ではドッグトレーナーに国家資格はありません。だからこそ、選ぶときの目線を持っておくことが大切です。

  • どんな方法を使うか、事前に説明してくれる(嫌悪刺激を使うかどうかを必ず確認)
  • レッスンの見学や、預ける場合の様子の共有ができる
  • 飼い主さんへの教え方が中心(犬だけを直す形で終わらない)
  • JAHA認定家庭犬しつけインストラクター、JDTA、愛玩動物飼養管理士など所属団体・資格を明示している
  • 咬みつき・強い不安・常同行動など医療が関わる問題は、獣医行動診療科のある病院やかかりつけ経由で相談する

「厳しくすれば早く直る」とうたう方法は、短期的に行動が止まって見えても、恐怖や攻撃性という形で後から表れることがあります。時間はかかっても、愛犬との関係を壊さない方法を選んであげてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 犬を叱ってはいけないのですか?

A. 「絶対にダメ」ということではありませんが、ご家庭では叱らずに教えるほうが現実的で安全です。罰として成立するほどの強さ・タイミングで叱るのはとても難しく、中途半端な叱り方は効果がないうえに関係を悪くするだけになりがちです。まずは「望ましい行動をほめて増やす」から始めてみてください。

Q. 体罰やショックカラーはどうしてすすめられないのですか?

A. 獣医行動学の立場では、恐怖・不安・攻撃性を高めるリスクがあるため推奨されていません。叩かれたり驚かされたりした経験は、行動をやめさせる以上に「人の手が怖い」「近づかれると危ない」という学習につながることがあります。叱って教えた結果、噛むようになったというご相談は実際に少なくありません。

Q. 「ダメ!」と声をかけるのも罰になりますか?

A. ワンちゃんが嫌がるなら罰、注目してもらえて嬉しいならごほうびになってしまっている可能性もあります。吠えやいたずらが「ダメ!」で増えているなら、それは注目というごほうびを与えている状態です。声をかける代わりに静かに環境を変える・代わりの行動を教えてほめるほうが効果的ですよ。

Q. ほめて教えているのに、うまくいきません。

A. 多くは「難易度が高すぎる」「ごほうびの価値が低い」「タイミングが遅い」のどれかです。できた瞬間(1〜2秒以内)にほめる、いつものフードではなく特別なおやつを使う、まずは静かな家の中から練習する、という3点を見直してみてください。【第6回レッスン】ごほうびを理解するもあわせてどうぞ。

Q. プロに相談する目安はありますか?

A. 唸る・噛む・人や犬への強い反応が出ている、留守番でパニックになる、症状が週単位で悪化している——このいずれかに当てはまるなら、早めに相談してください。時間が経つほど練習を重ねて定着してしまいます。医療が関わる可能性もあるため、まずはかかりつけの動物病院に相談するのが安心です。

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※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療を目的とするものではありません。愛犬の行動や健康面で気になることがある場合は、かかりつけの動物病院や専門家にご相談ください。掲載内容は2026年9月時点の情報です。

【笑犬】のっぽ さんの詳しいプロフィールはこちらです♪

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