(2026年10月更新)「支配」と「リーダーシップ」の違い、資源を守って唸るときの具体的な対応を、AVSAB(米国獣医行動学会)の立場表明をもとに追記しました。
飼い主さんにとって愛犬はどんな存在でしょう。家族・癒やしなど人それぞれあると思いますが、愛犬が飼い主さんをどう見ているか気になりませんか?
今回はそんな飼い主さんと愛犬の関係性についてのお話しです。

現在の関係を知る
「しつけ」をするうえでも愛犬との関係性はとても大事になります。まずは、よくある4つの関係性について説明していきます。

他人
飼い主さんを好きじゃないし言うことも聞かないなら「他人」と同じです。そう思われている人はほとんどいないと思いますが、もし心当たりがあるなら一から関係を築くために努力が必要です。
支配・怖い
これは良いとは言えない関係だし、飼い主さんも望んでいないはずですが「叱って教える」とこの関係性に陥る危険があります。以前お伝えしたように、飼い主さんは良い関係だと勘違いしやすいので第三者、特にプロの目で見てもらわないと気づけないこともあります。
表現は悪いかもしれませんが、いじめっ子は楽しく遊んでいるつもりでも、いじめられている側は怖いから愛想よく従っているような関係性ですね。
召使い
みなさんワンちゃん大好きなので、この関係がとても多いと思います。なんでも望みを叶えてあげて多少困ったことがあってもそれすらカワイイ。愛犬も飼い主さんもとても幸せなので良い関係とも言えます。
ただ、困った行動がエスカレートして手に負えなくなった時に飼い主さんでは対応できないので、愛犬は幸せでも飼い主さんはストレスが溜まることもある関係性です。
強い信頼関係
飼い主さんは愛犬大好きでかわいがり、困ったことがあれば望みをちゃんと伝える。愛犬は飼い主さんを信頼し応えようとがんばる。両思いでとても良い関係ですね。

あなたはどれに当てはまりましたか?
理想の関係を築くためにはまず、愛犬との現在の関係をちゃんと把握することからです。他の人から見てどうかで考えてみてください。
✅ しつけをするうえで、愛犬との関係性はとても大事
✅ 現在の関係性を把握する
理想の関係とは
言うまでもなく、「強い信頼」のある両思いの関係が理想ですよね。
一緒に暮らすうえで、どちらかに負担がかかるのはよくありません。「支配」「召使い」の関係は偏っているのでどちらかにストレスがかかります。最終的には爆発して精神的・物理的に問題が起こり、楽しい愛犬との暮らしのはずが負担に感じることがあるかもしれません。
お互い理解し合い、尊重しつつ許容できるラインを見つけてルール・関係を作っていく。私はそれが理想の関係だと思っています。
理想の関係を築くために
理想の関係を築くためには、飼い主さんがリードしてあげないといけません。そのためのポイントをお伝えします。
コミュニケーション
いくら具体的な理想があっても、愛犬の気持ちがわからなかったり自分の望みを伝えられなかったら意味がありません。コミュニケーションが取れているのは大前提です。
資源の管理
ワンちゃんは人間でいうと2~3歳くらいの知能と言われています。だから成犬になっても、しつけで手がかからなくなっても管理が必要なくなることはありません。

資源を管理し、飼い主さん経由で提供することによって愛犬とより良い関係を築くことができます。資源というのは愛犬に関するものすべてと言ってもいいですが、今回は以下の3つで説明します。
【食べ物・お水など】
ワンちゃんが自分では用意できないので100%飼い主さんが管理していると思います。必要な時に必要なだけ提供することが大事です。つまみ食いされたり、必要以上にあげてしまうのは健康上としつけ上よくないので気をつけてください。
【おもちゃ・遊び】
遊びは良い関係を築くのにも必要ですし、ストレス発散になるので定期的に遊んであげたほうがいいです。
おもちゃを出しっぱなしにしてる人もいますが、できれば遊ぶ時だけ出して遊ばせたり一緒に遊ぶのが理想的です。または「出しっぱなしのおもちゃ」と「特別なお気に入りのおもちゃ」を分けて、お気に入りは飼い主さんが管理しでもいいです。
出しっぱなしだといつかは飽きて新しいおもちゃを定期的に用意しないといけなくなったり、おもちゃ全般に興味を持たなくなったりします。そうすると家具や服、飼い主さんに遊びを求めて困ることも出てくるので、管理してあげることで困ることも減り長期的に楽しく遊べます。
【スペース】
クレートやケージなど生活や休憩するスペースなども資源と言えます。清潔にするのは当たり前ですが、怖がりで音に反応しやすい子には音が聞こえにくいような部屋にスペースを作るなども管理のうちです。愛犬に合わせて環境を作ることでストレスは減り、結果飼い主さんの負担も減ることになります。
落ち着ける場所を用意してあげることはとても大事で、そこに居る時はそっとしておいてあげるなど対応の基準にもなります。一人で居たい、落ち着きたい時にちょっかい出されるとストレスになったりしますからね。
✅ 管理は愛犬が何歳になっても必要
✅ コミュニケーションは必須
管理の重要性
適切な管理でなぜ良い関係が築けるのか?なぜ大事なのか?その理由を説明していきます。
飼い主さんへの信頼
愛犬が望むことや必要な物を飼い主さんが理解し、適時提供・対応することによって
「この人はわかってくれている」
「頼れる存在」
となり愛犬との信頼関係が築けます。
そうすると何か望みがあればまず飼い主さんに確認・要求するようになっていきます。そこで飼い主さんが判断してYes・Noを伝えてあげればいいんです。召使いだとほぼYesしか言えませんが、ちゃんと関係が築ければNoも言えるし愛犬もしつこく要求するようなことはなくなります。
愛犬が安心して暮らせる
飼い主さんが管理しないと愛犬は自分で管理しようとします。よくあるのは、「ごはん」や「おもちゃで遊んでいる」時に手を出すと唸ったり攻撃的になるのは資源を守ろうとするからです。
攻撃的な面が出るのはとても困るし危険なことです。それに、守るためには周囲を警戒したり気を張っていなければいけないので愛犬の負担やストレスも多くなります。
資源を飼い主さんが管理することで「欲しくなったら飼い主さんに頼めばいいや」と愛犬は気を張ることもなくリラックスして暮らせるようになります。攻撃的にもならないので飼い主さんにとっても良い事ですよね。
✅ 信頼関係を築いて、愛犬の要求に「No」も言えるように
✅ 愛犬自身が管理するのは負担が多きく、問題行動にも繋がる
シンプルにまとめれば「コミュニケーション」と「管理」ができていれば愛犬と信頼で結ばれた理想の関係を築けるということです。管理していても愛犬の気持ちがわかっていないなどコミュニケーションが取れていないとうまく関係は作れません。
両立して愛犬と楽しい生活を送ってください♪
【2026年版】「支配」ではなく「リーダーシップ」|いまの獣医行動学の考え方
この記事では良くない関係性として「支配・怖い」を挙げましたが、その考え方は現在の獣医行動学の主流とも一致しています。AVSAB(米国獣医行動学会)は、犬の問題行動を「上下関係」や「支配」で説明することに対して否定的な立場表明を出しています。
「なめられている」は、ほとんどの場合あてはまりません
AVSABの立場表明では、飼い主さんが悩む行動——吠えすぎる、飛びついてくる、呼んでも来ない——の多くは資源をめぐる争いではなく、たまたま報酬を与えられて強化されてしまった結果だと説明されています。「飛びついたら注目してもらえた」「吠えたら要求が通った」が積み重なっているだけ、ということです。
また、かつて根拠とされたオオカミの群れの研究自体が見直されており、犬はオオカミから大きく分岐して別の社会性を持つとされています。野生動物の社会構造をそのまま家庭犬に当てはめるのは適切ではありません。
そしていちばん危ないのが、恐怖や不安から出ている行動を「支配しようとしている」と読み違えてしまうことです。原因を見誤ると、対応がまるごと逆方向になってしまいます。
対立的な方法は、かえって攻撃を引き出します
AVSABは、罰は攻撃を一時的に抑え込むことはあっても根本原因には対処しないと指摘しています。攻撃の原因として恐怖や不安が多いため、罰はそれらを強めて問題を悪化させることがあります。
Herronらの2008年の研究では、叩く・蹴る・唸り声で威嚇する・仰向けに押さえつける(アルファロール)・にらみつけるといった対立的な手法が、犬の攻撃的な反応を頻繁に引き出したと報告されています。支配理論にもとづく方法は、威嚇や力の行使を繰り返さなければならなくなり、結果として飼い主さんと愛犬の関係が敵対的になってしまいます。
では飼い主さんがやることは?
AVSABが挙げているのは、まさにこの記事でお伝えした「コミュニケーション」と「資源の管理」に重なる内容です。
- 望ましい行動をすぐに・一貫して報酬で強化し、習慣にする
- 望ましくない行動には報酬を与えない(報酬へのアクセスを先に止める/取り除く)
- 行動の限界をはっきり決めて、ルールを一貫して伝える
- 資源を「強化子」として使う(例:「待て」ができたらごはんやおやつを出す)
- 行動の背景にある感情の状態、医学的・遺伝的な要因も評価する
- 脱感作・拮抗条件づけなど、学習理論にもとづく方法を用いる
AVSABは、飼い主さんの目標は「支配すること」ではなくペットが自発的にそう行動するよう影響を与えること(リーダーシップ)だとしています。この記事の「資源を管理し、飼い主さん経由で提供する」というのは、まさにこのリーダーシップの実践です。取り上げて力を示すことではありません。
✅ 困った行動の多くは「なめられている」ではなく偶然の強化が原因
✅ 対立的・罰的な方法は攻撃を引き出すリスクがある
✅ めざすのは支配ではなくリーダーシップ(自発的に動いてもらう)
【2026年版】ごはんやおもちゃを守って唸るときの対応
本文でお伝えした「資源を守ろうとして唸る・攻撃的になる」行動は、英語で resource guarding(資源の防衛)と呼ばれます。実際に起きているときの対応は、「管理」とは分けて考える必要があります。
やってはいけないこと
- 無理に取り上げる・試すように手を出す(RSPCAの資料では、犬をしつこくかまったり行動を「試す」ことを避けるのが極めて重要だとされています)
- 唸ったことを叱る——唸りは「これ以上近づかないで」という警告です。叱って消してしまうと、警告なしで咬む犬になりかねません
- 「悪い子」と決めつける——守る行動の背景には、たいてい不安や「脅かされている」という感覚があります
- 小さなサインを見逃す——気づかれなかった微妙なシグナルは、歯を当てる・咬むへとエスカレートします
やるとよいこと
- 早いサインで引く:守る様子が見えたら、ゆっくり離れて距離をあけます
- 静かで安全な食事場所をつくる:ごはん・ガム・おやつを邪魔されずに食べられる環境にします
- 多頭飼いは食事を分ける:競争とストレスが減ります
- 資源の数を十分に用意する:ベッド・食器・水・おもちゃを頭数より多めに置いて、争う必要をなくします
- 「交換(トレード)」で「ちょうだい」を教える
交換の教え方は次のとおりです。①引っぱりっこで遊ぶ → ②数秒遊んだら、おもちゃと引き換えにおやつを鼻先に出す → ③くり返しながら、おやつを出す直前に「ちょうだい」と言葉を添える → ④合図でおもちゃを離せたら、とくに good なおやつでごほうびにします。
ポイントは、「渡すと良いことが起きる」を学んでもらうことです。取り上げられる経験が増えるほど、犬は守るようになります。
こんなときはプロに相談してください
すでに歯を当てる・咬むところまで進んでいる場合や、急に守るようになった場合は、自己流で進めないでください。AVSABも、攻撃の原因を支配と決めつけず医学的・行動学的な評価を行って本当の原因を特定することを勧めています。痛みなどの身体の問題が隠れていることもあるため、まずはかかりつけの獣医師に相談し、必要に応じて獣医行動診療科や経験のあるトレーナーにつないでもらいましょう。
補足:「人間の2~3歳くらいの知能」という話について
本文で触れた「人間でいうと2~3歳くらい」という目安は、心理学者スタンリー・コレン博士が2009年のアメリカ心理学会(APA)年次大会で発表した内容がもとになっています。平均的な犬は約165語を理解でき、知的な能力はおおむね人間の2歳児前後に相当するとされました。
これは「ずっと子どもあつかいしてよい」という意味ではなく、言葉だけで説明して納得してもらうことはできないという意味です。だからこそ、環境と資源を整えて「できる状況」をつくる管理が、何歳になっても必要になります。
よくある質問(FAQ)
犬に「上下関係」を教える必要はありますか?
必要ありません。AVSAB(米国獣医行動学会)は、犬の問題行動を支配や上下関係で説明することに否定的な立場を示しています。飼い主さんの悩みの多くは資源をめぐる争いではなく、望ましくない行動が偶然に強化されてしまった結果です。目標は「支配」ではなく、望ましい行動を一貫して強化して自発的に動いてもらう「リーダーシップ」です。
ごはんのときに手を近づけて唸ります。取り上げて教えるべき?
取り上げないでください。唸りは「近づかないで」という警告で、無理に取り上げたり唸りを叱ったりすると、警告なしで咬むようになるおそれがあります。まずは静かに食べられる環境を用意し、資源の数を増やし、「交換(トレード)」で「ちょうだい」を教えていきます。すでに歯を当てる・咬む段階なら、獣医師や獣医行動診療科に相談してください。
「召使い」の関係だと何が困るのですか?
愛犬も飼い主さんも幸せなので、それ自体は悪い関係ではありません。ただ、要求がエスカレートして困った行動が手に負えなくなったとき、飼い主さんが対応できず、ストレスが溜まってしまうことがあります。信頼関係ができていれば、要求に対して「No」も伝えられるようになり、しつこく要求されることも減っていきます。
おもちゃは出しっぱなしにしないほうがいいですか?
できれば遊ぶときだけ出すか、「出しっぱなしのおもちゃ」と「特別なお気に入り」を分けて管理するのがおすすめです。出しっぱなしだと飽きやすく、家具や服、飼い主さんに遊びを求めるようになることがあります。ただし、資源を守る傾向がある子では、ベッドやおもちゃの数自体は十分に用意して、争う必要をなくしておくことが大切です。
成犬になってからでも関係は作り直せますか?
作り直せます。学習は何歳からでも起こります。まず現在の関係を他の人の目線で把握し、コミュニケーションと資源の管理を整えるところから始めてください。ただし、急に行動が変わった場合は痛みや病気が隠れていることがあるので、行動の問題として取り組む前に動物病院で診てもらいましょう。
あわせて読みたい関連記事
- 【第1回レッスン】しつけ=コミュニケーション ~愛犬と笑顔で暮らすために~
- 【第2回レッスン】「ほめて伸ばす」と「叱って教える」どちらが良いの?
- 【第3回レッスン】ワンちゃんの「学習の仕組み」と「伝え方」
- 【第6回レッスン】ごほうびを理解する
- 【第7回レッスン】しつけのウソ・ホント
- 【第9回レッスン】愛犬と暮らす最適な環境
- 【第10回レッスン】いたずら・困った行動のなぜ?原因と対策
- 「噛む」理由とプロセス
- 犬の噛む癖をやめさせる方法|子犬の甘噛みから成犬まで月齢別のしつけ
- 愛犬の気持ちを知る ~カーミングシグナルの読み取り方~
- ワンちゃんてなぜ吠える? ~対応と改善~
- クレート・ハウストレーニングのメリットと教え方
咬みつきなど危険をともなう行動や、急に行動が変わった場合は、痛みや病気が隠れていることがあります。自己流で対応せず、まずはかかりつけの獣医師、必要に応じて獣医行動診療科や経験のあるトレーナーにご相談ください。記載内容は2026年10月時点の情報に基づいています。
【笑犬】のっぽ さんの詳しいプロフィールはこちらです♪

